偽造抵抗力強化の観点から平成31年4月、財務省より新1万円札、5千円、1000円札とともに、新500円硬貨も発行されることが発表されました。
流通開始は令和3年(2021年)11月で、デザインおよび仕様の変更は平成12年(2000年)以来21年ぶりです。
令和3年に発行された500円硬貨の概要
新紙幣についてはデザインやサイズなどが刷新されますが、令和3年に発行された新たな500円硬貨については基本的な図柄に変更はありません。
発行時期
冒頭でも触れたように、新500円硬貨は令和3年(2021年)11月1日より発行が開始されています。
また、発行とは日本銀行から金融機関への支払いがおこなわれた時点をいいます。
しかしながら、これまでに発行が延期された経緯があります。
これは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、現金自動預払機(ATM)や駅の券売機などの改修作業が遅延したためです。
発行枚数
新500円硬貨の令和3年度における当初の発行枚数は2億枚の予定でした。
今後は徐々にその流通量は増加していく見込みです。
貨幣自体の流通量は減少傾向
1円硬貨や5円硬貨など、500円硬貨以外の硬貨は近年流通枚数が減少傾向です。
これは、キャッシュレス化の進展が原因と考えられます。
一方で、500円硬貨については流通量が増加傾向です。
その要因としては、500円硬貨貯金など、家庭で貯蓄されやすいことが関係しています。
このため、500円硬貨に限っては現状では流通量が減りにくいとみられています。
キャッシュレス化の進展における500円硬貨の意義
しかしながら経済産業省では、キャッシュレス決済の利用率を2025年までに4割、将来的には8割を目指しています
つまり、500円硬貨についても、ゆくゆくは需要の減少が見込まれます。
とはいえ完全になくなることはないと考えられます。
なぜならば、個人経営の店舗や医療費の支払いなどでは完全なキャッシュレス化が難しい場面もあるからです。
500円硬貨の偽造枚数
ちなみに、警察庁のまとめによれば令和2年に発見された偽造500円硬貨は計188枚です。
これは平成28年の675枚と比較すると減少傾向にあるとはいえ、依然偽造は後を絶たないことのあらわれで、偽造抵抗力強化のため今回の新500円硬貨発行へとつながる経緯となっています。
従来の500円硬貨は使える?
財務省の発表によれば、新500円硬貨の発行後も従来の500円硬貨は引き続き通用します。
新500円硬貨に置き換わるのは?
新500円硬貨は現在と同様のペースで発行され、従来の500円硬貨が同数回収されたとしても、置き換わるのには15年以上かかる見込みです。
財務省でも明確な時期については発表をしていません。
新500円硬貨の利用には注意も必要
新500円硬貨に限っていえば、現状一部自動販売機などでは使用できない場合があるため注意も必要です。
これは、自動販売機の「硬貨選別機」と呼ばれるセンサー部分が新500円硬貨に対応していないことによるものです。
こうした機器はたばこの自動販売機のほか、両替機、券売機などに多い傾向です。
また対応については今後、新紙幣が登場するまで見送られる可能性が高く、硬貨選別機に使用される半導体不足も影響が懸念されています。
各業界の新500円硬貨への対応
上記のような要因から、硬貨が利用される場面の多い各業界でも、新500円硬貨への対応はそれぞれ異なっています。
鉄道業界
鉄道業界ではJR東日本が一部の多機能券売機を除くすべての券売機で新500円硬貨に対応しています。
一方、私鉄各社などでは改修コストの問題から、各駅の券売機の少なくとも1台を新500円硬貨に対応へ改修するにとどまっています。
バス業界
バス業界も対応は各社でわかれています。
このため、料金均一区間の一般路線バスや高速バス、空港リムジンバスなどでは新500円硬貨が利用できるものの、自動券売機や対キロ区間の一般路線バスでは利用することはできません。
また多くのバス会社は新500円硬貨は利用できず、新500円硬貨の流通量の増加のほか、2024年に予定されている新紙幣発行状況をみながらの対応となっています。
小売業界
小売業界ではコロナ禍で売上が落ち込んでいるなか、機器改修のためのコストがより大きな負担となるため、他の業界同様、対応には時間がかかるものと考えられます。
令和3年の500円硬貨のデザインは従来のとどう違う?
新500円硬貨は従来のデザインをほぼ引き継いでいることから、一見違いがみつけられません。ただし、わずかに文字の配置が異なるなど、まったく同じではありません。
バイカラー・クラッド技術
新500円硬貨で外見上もっとも目を引くのは硬貨の中心部と外周部で色が異なることです。
これは「バイカラー・クラッド」と呼ばれる技術で、ニッケル黄銅のリング状パーツと、銅を白銅で挟んだ円形パーツを組み合わせたものです。
このため外見上はニッケル黄銅と白銅の2色にみえ、技術的にも材料の複合化という新技術が導入されており、世界的にみても偽造抵抗力の高い貨幣といえます。
一方材料の複合化は、単一素材と比較して複雑な製造工程や高度な品質管理が求められることから、再現の困難性が増すとともに視覚的識別性も向上し、偽造防止効果が期待できるとされます。
異形斜めギザ
通常硬貨のフチに入っているギザは均一な間隔で規則正しい形状であることが一般的です。
一方で新500円硬貨については一部のギザが他と異なる形状になっている「異形斜めギザ」が採用されています。
このため新500円硬貨の側面はよくみると細かいギザと大きなギザが交互に入っているのがわかります。
また異形斜めギザは貨幣の側面のギザを斜めにすることにより偽造抵抗力を向上させた「斜めギザ技術」を発展させているので、視覚的および技術的にも偽造抵抗力を一層高める効果があります。
潜像加工
新500円硬貨の「500」の刻印は、下に傾けると「JAPAN」、上に傾けると「500YEN」の文字がそれぞれ「00」の部分に現れます。
これは貨幣をみる角度によって光の入射角・反射角といった反射光の明暗の差によって生じる現象を応用したもので、潜像加工と呼ばれます。
従来の500円硬貨でも上に傾けた際には文字が現れていましたが、新500円硬貨では上下どちらでも文字が現れます。
令和3年の500円硬貨の特徴
新500円硬貨ではデザインはもとより、目には見えにくい微細な部分でも偽造防止の観点からさまざまな技術が盛り込まれています。
またそれらはどれも最先端の技術で偽造防止効果は非常に高いとされています。
微細点加工
新500円硬貨の表側に描かれている植物「桐」の葉の一部には微細な穴加工がみられます。
これは転写などによる偽造を防ぐために施されたもので「微細点加工」と呼ばれ、肉眼では判別が難しいほどの微細な加工です。
微細線加工
新500円硬貨の上下文字部分、「日本国」と「五百円」の周りに扇状に施された線模様です。
こうした模様は従来の500円硬貨にもありましたが、新500円硬貨の模様は髪の毛よりも細かい金属彫刻におけるミクロの最先端技術を駆使していて、こちらも偽造防止効果は非常に高いものといえます。
その他の微細加工
上記以外にも新500円硬貨には偽造防止の観点から微細な加工が施されています。
そのひとつが上下左右に刻まれた非常に小さな文字です。
上下2カ所には「JAPAN」、左右には「500YEN」とあり、どちらもスマートフォンのカメラなどでは撮影が困難なほど細かな加工です。
令和3年に発行された500円硬貨の価格相場は?
銀行では額面通りにしか取り扱われませんが、買取市場では貨幣や硬貨は額面以上の価値を持つものがあります。
これは500円硬貨も同様です。
では、新500円硬貨を含め、これまで発行された500円硬貨にはどれくらいの価値があるのでしょうか。
硬貨の中では額面の大きな500円硬貨はこれまでに2回デザインが変更されており、令和3年に発行された500円硬貨は3種類目です。
500円白銅貨
昭和57年〜平成11年に発行され、昭和57年にそれまでの500円紙幣に代わり、最高額硬貨として登場した500円硬貨です。
昭和60年に500円紙幣が発行停止になったことにより発行され、現在まで唯一500円の額面を持つ貨幣となっています。
素材にはニッケルが使用され、平成12年に2代目の500円硬貨が登場すると旧500円と呼ばれるようになりました。
発行初年度となる昭和57年には300,000,000枚が発行され、流通量は多くなっています。
このため、現在額面以上の価値で取引されることはあまりありません。
また、期間が1週間しかないため発行が少なく、一般的に価値が上がりやすいとされている昭和64年でも、16,042,000枚と比較的発行枚数は多いため、同様に額面程度の価値となっています。
ただし、2,775,000枚と発行枚数が極端に少ない昭和62年であれば、インターネットなどで800〜1,000円程度で取引される可能性があります。
500円ニッケル黄銅貨
偽造や変造被害の多発により、その対策として平成12年に改鋳された500円硬貨です。
従来の500円と区別するために新500円と呼ばれることもあります。
素材は銅、亜鉛、ニッケルの合金で、それまでの500円硬貨よりも黄身がかっているのが特徴です。
一方でデザイン的な変更はほとんどなく、偽造防止に注力されています。
発行期間は平成12〜令和3年ですが、どの年も発行枚数は多く、最も少ないのが令和元年の76,956,000枚で、それ以外はすべての年で1億枚超が発行されています。
このため、平成最後となる平成31年、元号の変わり目の令和元年、改鋳前の令和3年といった節目の年でも額面以上の価値は期待できません。
ただし、500円ニッケル黄銅貨を含む「ミントセット」や「プルーフ貨幣セット」といった造幣局が発行する貨幣セットであれば平成31年あるいは令和元年は若干のプレミアが期待できます。
エラーコインなら高額で取引される可能性も
エラーコインは製造過程で何らかのトラブルが発生し、正しく製造されなかった硬貨です。
厳しい検品を受けたにもかかわらず、これをすり抜けて市中の流通しているごくわずかな硬貨のため、希少性の高いレアコインとして高値で取引されることがあります。
また500円硬貨が登場したのは昭和57年と、すでに鋳造技術や検品精度も向上していることからエラーコインは非常に少なく、より市中に流通しにくくなっています。
そんななかでも500円硬貨のエラーコインには次のようなものがあります。
傾斜エラーは最初の500円白銅貨に多いエラーです。
表裏のデザイン角度がズレてしまっているものですが、両面のズレが大きいほど価値は高くなります。
表裏の角度の違いのため、発見しにくいエラーでもあります。
刻印のエラーです。
500円硬貨では両面が桐紋面になっているエラーが特に高値で取引されます。
加工品には要注意
エラーコインにはほかにも年号打刻抜けといったものが存在しますが、価値が高いことからこれを模した加工品も出回っているので注意が必要です。
なお、通貨を加工することは「貨幣損傷等取締法」により禁じられています。
新500円硬貨の最新の相場価格
上記を踏まえ、国内最大級のショッピング・オークション相場検索サイト「aucfan」によれば令和3年に発行された新500円硬貨の最新の相場価格は、新品参考価格で2,101円、オークション平均価格は1,105円となっています。
令和3年の500円硬貨の今後の価格相場予想
では発行されたばかりの新500円硬貨の価格はどのように推移していくと予想されるのでしょうか。
硬貨の価値を決定づけるポイントとともにみていきましょう。
硬貨の価値が決まる要因
エラーコインや発行枚数など、500円硬貨が高値で取引されるのと同様に、これら以外の要因でも価値が異なる場合もあります。
材質
硬貨にはその材質に金や銀などが含まれる場合があります。
こうした素材を使用している場合、相場にもよりますが硬貨は額面に関わらず高値で取引されることがあります。
また、金や銀はその含有率が高くなるほど重くなるため、重い硬貨ほど高値で取引されるといえます。
しかしながら500円硬貨については入手しやすいことを前提に亜鉛やニッケルが用いられているため、高値で取引されることは期待できません。
プレミア
プレミアも硬貨が高値で取引される大きな要因です。
ただし、ここまでの通り、発行枚数などから500円硬貨にはプレミアについてもその要素はありません。
そこで額面500円の硬貨としてプレミアが期待できるのは一般的に流通している硬貨とは異なる各種記念硬貨です。
なかでも昭和天皇即位60周年、および自治法施行60周年の記念硬貨は1,500円程度と比較的高値で取引される傾向があります。
また青函トンネル開通や、瀬戸大橋が開通した際に発行された500円記念硬貨も1,000円程度で取引されています。
その他の要因
高額で取引されることの少ない500円硬貨ですが、硬貨全般でいえることは、状態がよければ高値で取引される傾向があるということです。
このため、硬貨についてはそのクリーニングサービスをおこなっている業者もあります。
しかしながら500円硬貨の場合、費用対効果の面でこうしたサービスの利用はおすすめできません。
そこで考えられるのはセルフクリーニングですが、
500円硬貨の場合、銅とニッケルの合金である白銅が使用されていることから、塩素系漂白剤につけ、沸騰させたお湯に入れて汚れを落とす方法があります。
ただし、失敗すると腐食の原因になるため注意も必要です。
こうした観点から、500円硬貨についてはあらかじめ表面を傷や汚れから保護するため、ケースなどに入れて保管しておくのがよいでしょう。
令和3年に発行された500円硬貨の今後の価格は?
上記のような要因により、それほど高値で取引されることは期待できないのが500円硬貨です。
しかしながら、新型コロナウイルスの感染拡大やキャッシュレス化は、貨幣の発行枚数の抑制につながります。
すると、令和3年に発行された500円硬貨についても、今後プレミアコインとしての付加価値が認められる可能性がないわけではありません。
まとめ
ここまでのように、硬貨は額面通りでは取引されない要素をもっており、令和3年に発行された500円硬貨もこれは同様です。
しかしながらより高値で取引するためには知識がもとめられます。
もちろん、金券ショップなどに持ち込めば簡単に買い取ってもらうことはできますが、適正な価格とは限りません。
またこれはインターネットオークションなどでも同様です。
そこで、売買を検討する際には、硬貨や紙幣を専門に扱う業者を頼るのがよいでしょう。
なかでも専門知識と経験が豊富な鑑定士が在籍している業者がおすすめです。